一人社長は、老後のためのお金を貯める方法として、税制上優遇されている小規模企業共済や個人型確定拠出年金(iDeCo)を利用しましょう、ということは今までも書いてきました。
小規模企業共済や個人型確定拠出年金は、社長個人の所得税が節税になる制度です。
これらの他に、一人社長は、会社から退職金をもらうことが出来ます。
個人事業主には退職金はありませんので、一人社長のお話になります。
役員退職金はいくら貰えるのか
役員退職金は、税務上いくらでも経費に計上することが出来るわけではありません。
法律ではっきりと、いくらとは決まっていませんが、退職給与として相当と認められる金額でなければいけません。
一般的には、功績倍率法という方法で、退職金を計算することが多いです。
【功績倍率法の算式】
退職時報酬月額×勤続期間×功績倍率=相当と認められる退職金額
「なんだ、計算式があるなら簡単じゃん」と思うかもしれませんが、計算式の中に、「功績倍率」というものがあります。
実は、この「功績倍率」の数字も、法律で決まっていません。
法律では決まっていませんが、一般的には、社長で2倍~3倍と言われています。
今回は、退職金の金額の正当性が話のテーマではありませんので、2倍で計算します。
しかも、退職まで10年以上あるような社長の場合は、法律が変わっている可能性もあるので、だいたいの目安で考えるしかありません。
仮に、退職するときの役員報酬の月額が80万円で、勤続期間が25年、功績倍率が2倍とすると、以下のようになります。
80万円×25年×2=4,000万円
結構な金額になりますね。
ちなみに、最後の1年の役員報酬を不相当に高額にした場合などは、認められない場合もありますので、注意してください。
また、功績倍率法の他には、「1年当たり平均額法」というような方法もあります。
退職金を貯めるには
退職金を4,000万円くらいもらっても、税務上認められるとわかったとしても、実際にそのお金がなければ、支払うことが出来ません。
将来、会社から退職金をもらおうと考えているのであれば、資金の都合も考えなくてはいけません。
50歳から資金の準備をして、70歳で退職する場合を考えてみます。
準備の期間は20年ですから、1年当たり200万円を貯めていかなければいけません。
このお金は、税金を支払ったあとの金額で貯めることになります。
税率を30%と考えると、税引き前で285万円の利益を出す必要があります。
ハードルが少し高い気がしますね。
税金を支払った後の金額で4,000万円を貯めるのは大変です。
ここでも、税制上の優遇制度がある制度を利用する手もあります。
例えば、経営セーフティ共済という制度を使うと節税をしながら、お金を貯めることが出来ます。
経営セーフティ共済は、支払った掛金が全額経費になり、解約したときにそのお金が全額返ってきます。(短期間での解約の場合、元本割れすることがあります。)
掛金は、通算800万円までかけることが出来ます。
これを利用することで800万円を貯めることが出来るのです。
解約したときに、800万円が収入に計上されますが、同じ期に退職金が計上されるのであれば、税金の負担感も少なくて済みます。
税制上の優遇ではないですが、生命保険などを使う方法もあります。
生命保険については、税制もよく変わりますし、不確実な部分もありますので、利用する場合は、慎重に判断をする必要があります。
退職金、小規模企業共済、個人型確定拠出年金を総合的に考える
例えば、税制上の優遇を受けられるお金が8,000万円程度の枠があったとしても、そのお金を貯めることが出来なければ、全額もらうことは出来ません。
老後のためのお金をいくら用意するかを考えて、そのうち、退職金、小規模企業共済、個人型確定拠出年金でいくらずつを用意するかを考えるといいでしょう。
小規模企業共済→個人型確定拠出年金→退職金、の順で、優先して考えるのがいいと思います。
ただし、小規模企業共済を優先するからといって、小規模企業共済の枠を使い切ってから、個人型確定拠出年金をやる必要はありません。
それぞれ、性格が違いますから、それぞれの性格を考慮したうえで、配分を考えるのがいいでしょう。
小規模企業共済は、あらかじめ予定利率が決まっています。途中で変更になることはありますが、基本的には、ほんの少し増えて、減ることはありません。(途中解約の場合は、元本割れすることがあります。)
個人型確定拠出年金で、世界中の株式に投資する低コストのインデックスファンドで運用した場合は、年率3~5%程度のリターンが期待できます。もちろん損をする可能性もあります。
退職金は、会社が安定した業績を残せず、お金を貯めることが出来ないかもしれません。
例えば、5,000万円を貯めようとしたときに、小規模企業共済で1,500万円、個人型確定拠出年金で1,500万円、退職金で2,000万円とか配分を決めて貯めていくといいでしょう。
一人社長であれば、引退時期を考えることで、更なる税制上のメリットを受けることが出来る場合もあります。
まとめ
退職金は、税制上優遇されていると聞いたことがある人は多いでしょう。
しかし、一人社長の場合は、退職金の原資を貯めるところから始めなければいけません。
自分が引退するときに、どこかから自然にお金が湧いてくるわけではありません。
引退まで20年あれば、それなりの準備も出来るでしょう。
しかし、10年を切っていたら、準備も難しくなります。
引退はかなり先のことなので、あまり考えている余裕はないかもしれません。
しかし、せっかく税制上優遇されている制度がありますので、これらを利用して退職金を含めた引退後のお金を今から、準備をするようにしましょう。
【編集後記】
本日は、税理士会の支部の忘年会です。
今の支部に異動して初めての忘年会になります。
成田ということで、お店はうなぎ屋さんです。
うなぎが楽しみです。