今回の記事は、一人社長が、税制上優遇されている退職金を利用しようというものです。
前提条件を書きます。
・一人社長であること
・自分が引退したときは、会社も解散又は休眠すること(後継者がいなく、事業も売却しないこと)
条件はシンプルです。
自分一人の会社で、後継者もいない、かつ、事業を買ってくれる人もいないということです。
この場合で、税制上優遇されている退職金を利用することを考えます。
45歳で独立をして、65歳で引退するとします。
役員報酬を月額80万円、会社負担の社会保険料は月額10.2万円、会社の利益はゼロをベースにして、いくつかのケースを考えてみます。
法人税の税率は25%とし、所得税住民税については、社会保険料以外の所得控除額をどちらも80万円として、現在の税率を当てはめて計算します。
法人住民税の均等割は考慮しないこととします。
ケース1
20年分のそれぞれの税額の合計額は以下の通りです。
法人税 0
社会保険料 会社負担分 122.4万円 個人負担分 122.4万円 計 244.8万円
所得税 (960万円-216万円)-(80万円+122.4万円)=541.6万円
541.6万円×20%-427,500=655,700円
住民税 541.6万円×10%=541,600円
1年分の税額合計 2,448,000+655,700+541,600=3,645,300円
20年分の税額合計 3,645,300×20年=72,906,000円
今回のモデルケースでは、社会保険料も含めた20年間の税額の合計額は72,906,000円となりました。
この金額だけ見ると、恐ろしいくらいの負担感です。
では、次に色々なケースを見ていきます。
ケース2
役員報酬を月額65万円にして、役員報酬を減額した分は、最後に退職金としてもらうこととします。
法人税が25%かかるので、役員報酬を減額した分と社会保険料の減少した分の75%が退職金になります。
役員報酬が月額65万円の場合の社会保険料は、会社負担分と個人負担分がそれぞれ95,000円とします。
ケース1よりも、会社負担分、個人負担分の社会保険料が年額で、8.4万円ずつ減少します。
法人税 (0万円+180万円+8.4万円)×25%=471,000円
社会保険料 会社負担分 114万円 個人負担分 114万円 計 228万円
所得税 (780万円-198万円)-(80万円+114万円)=388万円
388万円×20%-427,500=348,500円
住民税 388万円×10%=388,000円
1年分の税額合計 471,000+2,280,000+348,500+388,000=3,487,500円
20年分の税額合計 1~19年分 3,487,500×20年-471,000=69,279,000円
※20年目は退職金が計上されるので、赤字になります。この場合の法人税は0として計算しました。
退職金にかかる税金
退職金は役員報酬の減額分と社会保険料の減額分を合わせた額の75%ですから、(15万円+0.7万円)×75%×12月×20年=2,826万円です。
小規模企業共済やiDeCoをやっていない場合で、他に退職金がない場合の退職所得控除額は800万円です。
税額は以下の通りです。
所得税 (2,826万円-800万円)×1/2=10,130,000円
10,130,000×33%-1,536,000=1,806,900円
住民税 10,130,000×10%=1,013,000円
所得税と住民税の合計 2,819,900円
退職金を含めた20年間の税額 69,279,000+2,819,900=72,098,900円
ケース3
ケース3は、生命保険に加入した場合です。
役員報酬を減額した分と同額の生命保険に加入することとします。
生命保険料は、1/2損金タイプとして、20年後の解約返戻率は90%とします。
法人税 (0万円+90万円+8.4万円)×25%=246,000円
社会保険料 会社負担分 114万円 個人負担分 114万円 計 228万円
所得税 (780万円-198万円)-(80万円+114万円)=388万円
388万円×20%-427,500=348,500円
住民税 388万円×10%=388,000円
1年分の税額合計 246,000+2,280,000+348,500+388,000=3,262,500円
20年分の税額合計 3,262,500×20年-246,000=65,004,000円
20年目の法人税 20年目は保険の解約返戻金が収入として計上され、退職金が経費として計上されます。
解約返戻金 150,000×12月×20年×90%=32,400,000円
ここから、法人税の増加分、450万円と、社会保険料の減少分42万円を控除した2,748万円を退職金として支給します。
20年目には、資産に計上されている保険積立金18,000,000円と解約返戻金との差額14,400,000円が収入に計上されますが、退職金2,748万円が経費に計上されますので、20年目の法人税は0となります。
退職金にかかる税金
(2,748万円-800万円)×1/2=9,740,000
所得税 9,740,000×33%-1,536,000=1,678,200
住民税 9,740,000×10%=974,000
所得税と住民税の合計 2,652,200
20年間の税額合計 65,004,000+2,652,200=67,656,200円
まとめ
ひとり社長が独立してから引退するときまでの税額の合計額をケースごとに比較してみました。
ケース1は特に何もしない場合で、ケース2は役員報酬を減額して、その分を退職金としてもらう場合、ケース3は、退職金のために生命保険を活用する場合です。
それぞれの税額合計は以下のようになりました。
ケース1 72,906,000円
ケース2 72,098,900円
ケース3 67,656,200円
これを見てどうお思いでしょうか。
第一に目立つのが社会保険料の負担です。
会社負担分まで合わせた場合、税額合計の65%以上が社会保険料になっています。
次に、ケース1とケース2が思ったほど変わらなかったなという印象です。
税制上優遇されている退職金を利用すれば、もっと差が出るかなと思ったのですが。
今回のケースでは、役員報酬を減額した額でも、厚生年金保険料が上限に達しているため、社会保険料の影響が少なめに出ています。
これが、役員報酬を月額60万円と45万円で比較をすると、社会保険料の影響がもう少し大きく出るはずです。
ただし、厚生年金保険料が上限に達しているということは、今回の3つのケースでは、将来貰える年金はどれも同じということです。
ケース1やケース2に比べて、ケース3は税額が随分と減少しているように見えます。
ただし、生命保険料を20年間支払い続けていますので、色々な問題が発生する可能性があります。
途中で保険料を支払えなくなる可能性もありますし、保険会社が破たんする可能性もあります。
税額が減るからと言って、生命保険に加入した方がいいと安易には言うことができません。
しかし、税額の負担が減ることも事実です。
退職金目的で生命保険に加入するのは無駄と言う意見を聞いたことがある人もいると思います。
そういった場合、会社が存続するケースでシミュレーションしている場合が多いように思います。
一人社長の場合は、むしろ自分が引退するときに会社も終わるのが通常だと思っていますので、会社が存続しない想定でシミュレーションをすることが大切です。
そうすると、退職金を支給する最後の年に大赤字になりますが、トータルで見ると、そのマイナス分だけ法人税が余計にかかることになってしまいます。
会社が続くのであれば、その赤字は翌年以降に繰り越せますが、会社が存続しない場合は、最後の年の赤字が無駄になってしまうからです。
生命保険を利用すると、20年間の利益を平均して減らすことができます。
そうは言っても独立したときから、引退を想定して生命保険に加入するのは現実的とは言えません。
20年間を予測するのは困難だからです。
50歳を過ぎたあたりで、先が見えてから検討を始めればいいのかなと思います。
税額は、条件が違えば変わってきます。
今回は、あくまでも、一つのモデルケースとして記事にしました。
実際は、判断要素が多くあり、ベストな選択と言うのは難しいのが現状です。
ベストな選択は無理でも、ベターな選択はできるように、50歳くらいには、引退のときまでのことを考えてみるといいでしょう。
【編集後記】
1年目、2年目とほとんど収穫できなかったブルーベリーですが、今年はそこそこ収穫できています。
このままいけば、100粒くらいは収穫できそうです。
週末に、法人を設立された方から問い合わせを頂きました。
少し前までは、個人の方からの問い合わせが多かったのですが、最近は法人の問い合わせが増えています。